IT組織力の強化は、「IT業務の生産性向上」を目的としています。そのためには、まずIT担当のスキルアップを図り、次にチームとして働く体制を整え、最終的に円滑なマネジメント方法を実施します。ベースになるのが業務を可視化するドキュメンテーション(文書化)です。これらの事例も紹介します。

・IT組織力強化の要点について

  1. マネジメント
    1. ITスキルを有するスタッフを揃えること
      1. IT専門のスタッフを揃えた組織の成功事例
      2. 組織の縦割りの弊害
    2. ITスキル管理
    3. チームワーク
    4. ドキュメンテーション(電子文書管理)

1. マネジメント (手段)

  IT組織のマネジメントの役割は三つ考えられます。一つ目は経営方針に沿ったIT組織の目的を果たすことです。二つ目はIT業務を通じて社員たちを生かすことです。そして三つ目は(可能な限り)社会の問題の解決に貢献することです。そして最も大事なのは、組織は「何をなすべきか(自社へのIT活用)」、並びに「機能は何か(主にシステム企画、システム運用および社内IT教育)」を明確化することです。

  ここでは、一般的な管理職のマネジメント(労働基準法の基本、リーダーシップ、コーチィング、カウンセリング、ソーシャルスタイル、モチベーションマネジメント、チームビルディングなど)の説明は割愛し、ITマネジメントにおける組織力強化の要点を説明します。

・1.1 ITスキルを保有するスタッフを揃えること

   IT組織を最適化するための編制として、ITの専門家を雇用すべきです。次に国内企業でIT部に所属している非専門家(ITに不向きな社員)は、「それまでの貢献に感謝して、営業、製造、管理などの適正業務がある他部門へ昇進して異動させる」ことが円滑に人事異動を遂行できる望ましい方法です。IT部内では、IT専門の教育を受けた社員はシステム企画業務にアサインし、そうではない方はシステム運用業務にアサインするのが一般的です(大企業では一般的に大卒社員は企画業務、高卒社員はルーティンワークにアサインするという方針と同じです。下図参照)。

  余談ですが、欧米企業ではIT部社員として非専門家は雇用しません。彼らは、「医者」や「弁護士」のような高度な専門的教育を受けた知識および業務経験を有するハイレベルのIT要員が円滑・最適にIT業務を遂行できることを認識しているからです。そして、IT専門家であっても経営層が望む業務結果を出さない社員は解雇して、次を雇います(海外でこれが特に厳しいビジネス環境ということではなく、普通です)。国内の大手企業でも、このことに気づいて今までのIT部の要員の社内育成における方法を改め、外部からIT専門家を積極的に雇用し、自社業務プロセスにIT活用を最大化して、最適化に成功しているケースもあります。

・1.1.1 IT専門家を採用して業務プロセス最適化に成功した事例

 (a) 個別に導入していた経理システムおよび販売管理システムを廃止して、販売管理向けERPを導入したことにより、一般消費財販売プロセスを最適化したケース。

  (b) 個別に導入していた経理システム、販売管理システムおよび生産管理システムを廃止して、製造業向けERPを導入したことにより、経理・販売管理・生産管理の業務プロセスを最適化したケース。

・1.1.2 IT専門家を採用したにもかかわらず、システム全体最適化ができず、改善の余地がある事例

  日本では現場が強い企業は少なくありません。以下のケースでは現場の個別システムを維持管理(現場管轄)して、他部門が必要とするデータは「データ交換ソフト」によって、データ送信・交換・共有する方法でも業務は回ると現場の主張でした。現場の主張を通して全体最適化を見送った、そしてIT部の主な業務は既存システムのリプレイスとなりました。各部門の縦割りの弊害を打破できず、業務全体最適化が実現できなかったケースです。同じ業態と規模の欧米企業では、一つのERPに統合できて、システム全体最適化を実現できています。これは技術の問題ではなく、マネジメントの課題であり、改善の余地ありと考えます。

 マネジメントの重要な項目であるコミュニケーションの目標は、IT担当のITスキルを標準化することにより、IT専門用語で部内コミュニケーションができるレベルを達成することです。円滑なコミュニケーション方法および組織の縦割りの弊害を打破する一つのアプローチについて、「コミュニケーション」および「プロジェクトマネジメント」のページに詳細を記載していますので、併せてご確認ください。

1.2 ITスキル管理(手段)

 ITスキル管理とは、現在の社員のITスキルのレベルアップを図るための管理方法です。初めに各社員の現状のスキルを把握し、次にどのスキルを重点的にレベルアップするのか計画を立てて、レベルアップの対策を実施することです。そして、スキルアップの方法としてはITベンダー研修受講、ITベンダーへの出向、OJT(社内に専門家がいる場合)、専門的な教育機関での学習などが挙げられます。これらの「ITスキル」の内容を管理するテンプレート図および事例は以下のとおりです。

★スキル管理のテンプレートの事例

★IT担当のスキル管理の一例

★IT部長のスキル管理の一例

★運用方法:スタッフの場合は、半年に一回の面談にてレベルアップの進捗状況を確認し、管理職は一年に一回確認するのが標準的です。

1.3 チームワーク(手段)

 チームワークとは、組織の生産性の向上を目的として、各個人に属人化されているITスキルを共有し、「チームとして働く」仕組みを導入・定着させる取り組みです。これを実現するアプローチとしては、各タスクに責任者、主担当と副担当を割り当てる方法があるます。これにより、自分で全部の仕事を抱き抱える社員を無くすことができ、主担当が不在の場合でも副担当が当該業務に対応できることが最大の利点です。

 各タスクについて役割分担と責任を明確にする管理表(一部)の事例は以下のとおりです。なおフルバージョンを参照するには「下記の図」をクリックしてください。

★運用方法:新年度開始時期に更新し、新プロジェクト発生や人事異動発生時に役割・責任を更新する運用が標準的です。

★特記事項:欧米企業の多くの社員が年間に30~40日間の連続休暇をとり、バケーションを楽しむことができるのは上記の「主担当・副担当」制度を採用しており、問題なく業務が回るからです。もちろん、主担当と副担当が同時にバケーションを取得することはしません。

大手企業のIT部におけるチームワークの事例について

 某大手企業におけるIT部のチームワーク体制の事例を紹介します。社内からITに詳しい人材を集めるのは困難であったため、IT非専門家の正社員をIT担当に任命し、「ITベンダーからのIT専門家(業務委託従事者として契約)」と組ませて、必ずペアで業務を遂行させる体制を組んでいました。その役割分担と責任は以下の表のとおりです。

No.ペアでIT業務遂行役割分担と責任
1正社員: 非専門家・主担当
・部内:施策立案、予算獲得、意思決定(支援含む)
・他部門:IT関連における連絡調整業務
2業務委託従事者:IT専門家・主担当の技術補佐役(必要に応じて副担当)
・適切なITサービスの提供
(施策によって、他の専門家に交代可)

 上記は、言うまでもなく当該企業に予算に余裕があるから構築できるペア体制です。メリットは最適なITサービスを享受できることです。正社員の能力向上によって、人材育成にもなります。デメリットは、やはり「二人で一人前」となりますので人件費が二倍も掛かってしまうことです。なお、IT部門の社員だけではなく、ビジネス部門のパワーユーザーにもITベンダーからの業務委託従事者を組ませて、ペア体制にしていた会社もあります。中長期的なIT人材育成計画としては、ITの専門的な教育を受けた新入社員採用や必要に応じてIT専門家の中途採用・経験者採用を実施していき、徐々にIT専門家の組織体制に移行します。

1.4 ドキュメンテーション(文書化)

  1. ドキュメンテーションの大事な目的の一つは組織力強化であり、そのアプローチは大まかに二つあります。
    1. 業務プロセス標準化のための電子文書化
       昨今、マーケットのニーズの変化により国内の企業では終身雇用制度・年功序列制度の維持が困難になり、人材の流動化が発生しています。マニュアル化できる業務プロセスはすべてマニュアルを作成することにより、人材の流動化(異動・退職など)が発生しても、後任はマニュアルを参照することで業務は問題なく円滑に回すことができます。極論として担当者が変わっても、引継ぎなしで円滑な業務遂行可能となります。特にIT部のヘルプデスクを含むシステム運用業務はルーティンワークとして、ほぼ全てがマニュアル化可能で、内容の修正維持管理が容易となるように、電子文書化することを強く推奨します。特に現在はスマートフォンのカメラ機能の性能が向上して、写真や動画込みの充実した業務マニュアルが簡単に作成可能です。
    2. 業務プロセス最適化のベースのなる資料
       中小企業の経営層に自社業務についてヒアリングした際、彼らは長い時間をかけて業務プロセス全体について口頭で説明することはできますが、業務全体を俯瞰する資料の存在は皆無であることを目の当たりにしました。企業によっては営業業務や製造業務の業務フローの資料も存在しませんでした。
       理由は、おそらく餅は餅屋の精神です。つまり、営業は営業業務のこと、製造は製造業務のこと、管理部門は管理業務のことだけに専念して、自分の業務を分析、改善します。そして、業務全体を統括する機能(横串刺し)を設ける必要性が低かったからと考えます。
       しかしながら、これは自社の業務プロセスの改革・刷新や最適化に向けて、現状を把握するために必要不可欠な資料です。業務フロー(物流・商流)を文書化することを強く推奨します。なお、当該資料は新入社員や経験者採用した社員の育成に流用可能です。
       上記のヒアリングの結果、営業のプロジェクトリーダーおよび製造のプロジェクトリーダーをIT部のプロジェクトマネジャーがリードして営業・製造業務フローを完成させることになりました。これをベースにシステム企画・構築・導入・運用にたどり着き、業務プロセスを最適化することができました。
       なお、大企業では、経営企画部や事業企画室など業務全体を統括する機能を保有する組織が存在して、当該資料作成・維持管理業務を担っています。

★在庫の直送手配における業務フローの事例

 上記の簡単な業務フロー図でも、「有ると無い」とでは、業務プロセス最適化においては雲泥の差となります。

ワンポイントメッセージ:各IT担当のスキルアップは当然のことであり、組織力強化の基本はチームワークです。全業務をリスト化し、主担当と副担当をアサインすることがその一つの手段です。

 次項の”コミュニケーション”は「こちら」をクリックしてご参照ください。