「ITサービスマネジメント」は「ITサービス管理」や「ITSM」( "IT Service Management"の略)と表記されることもあります。
★本ページの内容:
1. ITサービスマネジメントとは
ITサービスマネジメント(以下、ITSM)とは、ビジネスの拡大を目指すために、ビジネス部門のニーズにあったITサービスの安全・安定的な提供とビジネス視点でのITサービスの継続的な改善を企画・管理するための仕組みです。システム運用やヘルプデスクのサポート範囲、下表のとおりです。
No. | 内容 | サポート対象 | 備考 |
1 | システム運用 | ハードウェア・ソフトウェア | 安全・安定稼働を目指すシステム運用管理 |
2 | ヘルプデスク | エンドユーザー | 問い合わせ対応 |
3 | サービスデスク | エンドユーザー・IT部門 | 問い合わせ対応 サービス改善(ITILベース※) 契約管理 |
4 | ITSM | ハードウェア・ソフトウェア エンドユーザー・IT部門・経営層 | 安定・安全なシステム管理 問い合わせ対応 サービス改善(ITILベース※) 契約管理 パワーユーザー エグゼクティブサポート |
※ITSMのベストプラクティスがITIL( Information Technology Infrastructure Libraryの略)です。
ヘルプデスクは、自社で利用しているITサービスに関連する情報とサポートをエンドユーザーに提供するための業務、またはそれを実施する組織を指します。主なヘルプデスク業務は、エンドユーザーからの問い合わせ対応、問題のトラブルシューティングを行ったり、コンピューターやソフトウェアなどの製品に関するガイダンスを提供したりすることです。
サービスデスクは、ヘルプデスクとほぼ同義として用いられることはありますが、エンドユーザーからの問い合わせに対応するだけではなく、社内で検知されたシステムの不具合への対応、技術情報や契約の管理、ITILベースのプロセス管理や新しいITサービスの情報発信を行う役割も担っています。
2. 障害対応の方針について
システム障害の発生を検知する仕組みから障害を把握し、原因を究明して復旧させる体制を構築すべきです。重要なのは、ユーザーがシステム障害発生に気が付かないうちに「復旧」させておくことです。復旧に時間がかかる場合には、関係者へ事前周知します。ユーザーがIT部より先に障害発生に気が付き、IT部は連絡を受けてから対応する体制は、IT組織の信頼性を低下させてしまいます。以下は、そのイメージ図です。
【参考】死活管理やリソース監視機能を有する統合運用管理ソフトウェアの例:OpenView(HP)、SystemWalker(富士通)、JP1(日立)
エンドユーザーからヘルプデスクへの問い合わせ対応については、ヘルプデスクはエンドユーザーとの唯一の窓口になるべきです。「1.7 コミュニケーション」の章からの再掲になりますが、エンドユーザーとヘルプデスクのコミュニケーションルートのイメージは以下のとおりです(②と③)。
3. ヘルプデスクの事例
エンドユーザーのITSMへの窓口はヘルプデスクとなります。以下は、エンドユーザー約100名の販社のヘルプデスク体制の事例です。
続いて、エンドユーザー約300名の製造業におけるサービスデスク体制の事例は以下のとおりです。上記との違いは、サービスデスクがFAQ(よくある質問・回答)を整理して、ホームページ形式でエンドユーザーに対して情報発信している点です。
参考までに、大手企業におけるサービスデスク体制の例も以下に示します。ここでは、ヘルプデスクはITベンダーにアウトソーシングしています。なお、ITILにおけるインシデント管理などに加えて技術情報管理や資産管理も行っています。ここで特筆したいのは、パワーユーザーの存在です。例えば営業部のパワーユーザーは営業管理システムについて、エンドユーザーの問合せ対応の担当になっています。もちろん、パワーユーザーにデータベースへのインシデント登録・更新の権限も与えます。そのイメージ図は以下のとおりです。
同じく参考のためですが、グローバルに活動しているある大手製造業では、グローバルサービスデスクを「グローバルサポートセンター」と称して、世界中のマーケットにおける営業拠点などへの対応を実施しています。例えば、日本の業務終了後に遅くまで残業している社員にITサポートが必要になった場合、日本地域をサポートしているサービスセンターは業務終了していますが、営業時間中の海外マーケットは必ず存在しているため、このサービスセンターへ問い合わせすることが可能ということになります(コミュニケーションはビジネス英語で行うのが基本です)。なお、グローバルに利用されている代表的なITサービスマネジメントツールは「Service Now」というシステムです。
4. ITILについて
「ITIL( Information Technology Infrastructure Library)」は、ITSMのベストプラクティス(成功事例)をまとめたガイドラインで、ITサービスの企画・構築・運用というシステムのライフサイクルに沿って必要なプロセスが明記されています。プロセスには、サービスデスク、インシデント管理、問題管理、変更管理、リリース管理などがあります。主な管理項目の内容は下表のとおりです。
No. | 管理項目 | 内容 |
1 | インシデント管理 | ・インシデント = システムやITサービスに何らかの問題が発生しており、サービスを受けているユーザーに悪影響が起きている状態のこと。 ・ユーザーからの問い合わせやシステムの正常な運用を妨げる事象を「インシデント」として管理します。 ・問い合わせに対しては適切な回答、事象に対しては回避策を早急に提示します。 ・インシデント管理プロセスで対応困難なものについては、問題管理プロセスに対応を依頼します。 |
2 | 問題管理 | ・問い合わせやシステム障害などのうち、原因追求が必要と判断したものを問題点として管理します。 ・問題の根本原因を調査し,恒久的な解決策を導き出します。 ・インシデント管理プロセスへのフィードバックが必要であれば、インシデント管理プロセスに対応を依頼します。 ・ユーザーに提供しているドキュメントやシステム自体に変更が必要であれば、変更要求(RFC)を発行し、変更管理プロセスに対応を依頼します。 |
3 | 変更管理 | ・システム変更要求の発行を受け、変更による障害発生リスクや業務への影響度を考慮に入れた上で変更内容の審議と変更計画の立案をします。 ・変更計画の立案には、システム構築・運用に携わる有識者やシステムの利用ユーザーなどが加わります。 ・ITILでは、上記の立案者および関係者を変更諮問委員会(CAB)メンバーと呼びます。 ・審議・変更計画の立案をする会議を変更諮問委員会会議(CAB会議)と呼びます。 ・会議の結果、変更計画が決まれば、リリース管理プロセスに連絡・対応を依頼します。 ・問題管理プロセスに、変更要求の結果を連絡します。 |
4 | リリース管理 | ・変更計画に基づき、対象システムに対する実装計画を立てます。 ・実装計画に基づき、構築・テスト・実装を実施します。 ・実装した後は、変更管理プロセスおよび構成管理プロセスに実装したことを連絡します。 |
5 | 構成管理 | ・対象となっているシステムの構成情報を管理します。 ・構成情報には、ハードウェア・ソフトウェアなどの情報の蓄積・関連付けが行われ、ほかのプロセスから必要に応じて参照されます。 ・リリース管理プロセスによってシステム変更が実施された場合には、最新の構成情報に更新する必要があります。 |
ワンポイントメッセージ:ビジネス拡大のためにITサービスを利用するエンドユーザーのITリテラシー向上がITSMの一つの重要な役割です。
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