人事情報・給与管理システムとは、人事部で使われる情報システムであり、名称のとおり、「人事情報の管理」および「給与計算」の機能で構成されています。

本取り組みの内容

  1. 人事部の業務:人事情報・給与管理システムの機能
  2. 人事定例業務
  3. 人事情報・給与管理システム導入に準備すべき情報
  4. 人事企画業務の概要
  5. 人事考課を支援するシステムの事例

1.人事部の業務:人事情報・給与管理システムの機能

 人事部門の業務は主に人事定例業務と人事企画業務に分類できます。人事定例業務は、社員の基本属性情報の登録、勤怠情報の収集、給与の計算、支払い、税金納付、社会保険対応など、労働基準法社会保険法を遵守した事務処理の正確なに実施を目的としています。一方、人事企画業務は採用から人事考課、育成計画、後任計画まで一貫した社員の管理を目的としています。下図は、これらの業務を簡単に整理したものです。

 人事情報・給与管理システムは、ルーティンワークである勤怠データの収集、給与計算、給与支払い、納税や社会保険対応などの事務作業の効率化、および人事企画業務である採用管理、人事評価や人材育成に関する業務の支援・効率化を目的としており、「社員の一連の人事情報を管理」するシステムです。人事情報・給与管理システムの主な機能一覧は下図のとおりです。

★特記事項: 人事情報・給与管理システムの給与管理機能は事務作業効率化を目的として、財務会計システム同様にビジネス界では早い段階から導入されています。人事定例作業は法令遵守が前提であり、アウトプットはどのベンダーの商品でも同じものでなくてはならないため、機能が充実しており、関連法改正対応のスピードやシステムの操作性くらいしかベンダーによる差別化の余地がありません。近年では人事企画機能を提供するシステムが増え、企画業務支援も充実してきました。

2.人事定例業務

 まず、人事定例業務を支援するシステムについて紹介します。はじめに、社員基本情報を登録する「基準情報」の設定が必要です。次に勤怠データを収集・登録し、勤怠データを元に給与計算を行い、銀行へ振込データを送信して、全社員に給与明細書を配布します。下図は、この業務フローを示すものです。

★人事定例業務の業務フロー図

(I)人事情報管理(共通)の基準情報設定
 人事情報・給与管理システムを利用するには、最初に社員の基準情報の設定を行います。基準情報は、企業の給与形態自体の設定と各社員の給与の支払いに関する設定に分けられます。
 ・給与体系:年俸制、月給制、時給制など
 ・各種手当:残業手当、役職手当、住宅手当や交通費手当の有無など
 社会保険に関する設定も人事情報・給与管理システムの導入段階で行います。

(II)人事定例業務の勤怠管理システムおよび給与管理システム

 ・勤怠管理システム
 勤怠管理システムでは一般的にタイムカード入力で勤務実績データ(勤怠データ)が記録されます。社員の日々の勤務状況を収集し、給与計算の元になる勤務データを作成します。また、勤務実績の入力インターフェースでは、一人ひとりの社員について、一日の勤務区分、勤務開始時間、勤務終了時間、休息時間などを入力します。これらのデータを入力すれば、その日の勤務時間、超過勤務時間(残業時間)、深夜勤務時間などが計算されて表示されます。こうして入力された勤務実績データは一ヶ月分蓄積され、締め処理によって、当該月の超過勤務時間(残業時間)が集計されます。集計されたデータは、そのまま給与計算のシステムに引き継がれることになります。勤怠システムの入力画面の例は下図のとおりです。

★注意事項:フレックスタイムを導入している場合、フレックスタイム対応の勤怠管理システムを導入してください。非フレックスの場合とは勤務時間の計算が異なります。また、コア時間に応じて、遅刻・早退がある場合の給与計算が異なるからです。

 ・給与計算システム
 勤怠データを元に、基準情報設定された情報を使って、社員に支払う給与の計算を実施します。上記の人事定例業務の業務フローでは、タイムカード入力で、勤務実績データ(勤務データ)を取り込み、その後、不足する情報の入力や調整を行い、明細データ入力、明細書の出力(印刷かPDF)、銀行へ振込データ送信(ファームバンキング利用時)と一連の給与支給に関する処理を行います。これらの処理がすべて完了すると、翌月の給与計算の準備のために「次月度へ更新処理」を行います。給与計算システムのアウトプットである給与明細書の一例を以下に示します。

 ・その他関連システム(賞与計算システム、社会保険システム、年末調整システム)
  賞与:賞与とは、「定期的に支払われる賃金以外の賃金」、例として「夏季や年末、年度末や決算期といった時期に支払われる一時金」です。 支給日には、所得税や社会保険料を控除した後の金額が銀行口座に振り込まれ、支給する賞与金額は、「基本給の○ヵ月分」と計算されます。賞与計算システム:賞与計算でも大変な所得税が自動で計算されるため、作業の効率化が図れるシステムです。

  社会保険:社会保険とは、国民が「老後、失業、病気や事故など」に備えて安心して暮らすための公的保障制度です。入社時に強制加入となる「医療保険」、「年金保険」や「介護保険」を意味します。社会保険料を毎月決められた額だけ支払うことによって、医療費や老後の年金を保障する制度になっています。 社会保険システム: 社会保険・労働保険の帳票作成や申請などを行える機能を有したシステムです

  年末調整:給与の支払者は、社員に対して給与や賞与を支払う際に所得税の源泉徴収を行っています。但し、給与から源泉徴収をした所得税の合計額は、1年間に納めるべき税額と一致しないことが多いため、源泉徴収をした所得税の合計額(源泉所得税)と、納めるべき所得税(年調年税額)の差額を精算する手続きを行う必要があります。その手続きを「年末調整」といいます。 年末調整システム: 社員情報や1年間に支払った給与データを基に、過不足税額を自動計算できるため、年末調整の作業の効率化が図れるシステムです。

(III)各種申請対応について
 人事部は社員から以下のような届や依頼を受けます。
 ・住所変更届
 ・扶養変更届
 ・口座変更届
 ・通勤経路変更届
 ・資格取得届
 ・就労証明書発行依頼など
 これらの申請業務を効率的に行うために、「ワークフロー機能」がある人事情報・給与管理システムを選定・導入することを推奨します。

3.人事情報・給与管理システム導入に準備すべき情報ついて

 人事情報・給与管理システムの給与計算に必要な固定の情報である「マスタデータ」の一部を以下に示します。

No.設定項目設定内容
1社員の個人情報氏名・職種・役職・雇用形態・所属部門・給与振込口座・家族構成・住所など給与計算に必要な情報

★詳細
・社員番号、社員名、生年月日、性別、住所、連絡先、学歴、職歴、入社年月日、退職年月日、家族情報、資格情報、賞罰情報、研修受講履歴、異動履歴、給与振込口座(銀行名、支店名、口座番号)
2給与明細に出力する項目出勤日数、各種時間外労働時間、休暇日数、欠勤日数、支払総額、各種控除項目、口座振込額など
3税率所得税率など

 また、当該システムの動作処理(パフォーマンス)を決める重要な設定内容は以下の通りです。

No.設定項目設定内容
1職種職能等級など
2役職部長、次長、課長など
3雇用形態正社員、契約社員、派遣、パート、アルバイトなど
4勤怠状況遅刻、早退、欠勤、有給休暇など
5各種手当役職手当、通勤手当、家族手当、住宅手当など
6直接費所得税・住民税など
7社会保険料健康保険、介護保険、厚生年金、雇用保険など
8その他財形貯蓄、持株拠出額、労働組合費など

重要:社会保険や税制に関する法令改正は頻繁に発生するため、ベンダー側が法令改正に対応してくれる人事情報・給与管理システムの導入が重要となります。

4. 人事企画業務の概要

 人事企画業務は採用から人事考課、育成計画から後任計画まで一貫して社員の管理を目的としています。主な内容は以下のとおりです。

No.企画内容
1採用計画新入社員、経験者採用
2人事考課目標・成果管理
3人材育成スキル管理、コンピテンシー(コミュニケーション、関係形成能力や問題解決能力など)管理、研修受講管理
4キャリアプラン後任者育成
5各種シミュレーション異動(適切な人材配置)、人件費(昇給・昇格、賞与、退職金、年金)

 人事企画業務で重要なのは、人材戦略に基づいた人材採用、人材育成計画およびキャリアプランのPDCAです。このPDCAができていない、中小企業の例を二つ挙げます。
(1) 人事定例業務を正確に遂行するだけで精一杯のケース:人材育成までは手が回らなく、完全に放置。
(2) 人事部のトップに人事の専門家ではない人事担当役員を配属:人事業務に関して知識・経験・実績・信用がないため、人事定例業務をこなすだけで良しとして、現状維持を貫き、人材育成のための体系的な業務改善導入・実施までは踏み込めない。
 このケースでは、「自分も会社から育てられることはなく、先輩の背中を見て、技を盗んでやってきた。後輩も同じように!」で、そのような対応しかできないという話でした。そもそも会社の都合で、人事担当役員にアサインされただけであって、実際は営業が好きで営業担当役員を希望していたのに叶わなかったとのことでした。ITの非専門家をIT部のトップにするのと同様、他部門でも非専門家のパフォーマンスが十分ではないことは同じです。「餅は餅屋」に任すべきです。

 続いて、人事企画機能をサポートする仕組みとして、基本的な入力すべきデータの取得・入力・管理の事例を紹介しますが、以下は既に紹介したIT部の人材育成・組織力強化のページからの再掲です。他部門にも同じ仕組みが適用できますので、ご理解ください。

 まず、ITスタッフのスキル管理シートは以下の通りです。他部門用にアレンジしてください。

 次に、IT担当のキャリアプランの事例を以下の図で紹介します。他部門にも応用してください。

   上記のキャリアプランを実施するには、まずIT部の人材構成の現状を把握する必要があります。以下の例を他部門に応用してください。

 キャリアプランに基づいて、例えば2024年にB氏をA部長の後任とすることが適切な場合、それまでにB氏に必要なスキルを身につけるための研修を受講させ、あるいはOJTで実践・引継ぎをするなど育成計画を立案します。もちろん、B氏のキャリアプランシートで本人の希望に沿っているか確認することは必要です。  

5.人事考課を支援するシステムの事例

 人事評価および賞与を計算するシステムの事例を紹介します。まず、全体のフローは以下のとおりです。

 まず、賞与の構成比率を決めます。例えば、「会社業績評価(10%)」、「部門評価 (10%)」および「個人評価 (80%)」です。次に、評価基準を決めます。例えば「評価基準: A・B・C・D・E」です。

No.評価結果内容基本給に対する倍率
1A計画を著しく上回る実績1.2
2B計画を上回る実績の評価1.1
3C計画どおりの実績1.0
4D計画を下回る実績の評価0.9
5E計画を著しく下回る実績の評価0.8

 そして、企業の売上実績の計画達成度に応じて、例えば当該年度の半期ごとの賞与は、管理職は基本給の2.5倍、スタッフは基本給の2.0と決めます。結果、計画どおりの実績になった場合は「C」と評価し、管理職の賞与は基本給の2.5倍、スタッフの場合は基本給の2.0倍となります。もちろん、システムは自動的に計算しますが、最終評価は経営陣が行うため、全体のバランスや個人の企業貢献などを考慮して、システムの計算結果を多少変更するのはよくあることです。

★特記事項:IT部門は年間売上の1%未満というコストセンターの基準額の達成の有無のほか、社内顧客である他部門の長からも、当年度のパフォーマンスの評価を受けます。例えば、営業部へ提供した営業支援システム導入・稼働について、QCD(品質、コスト、納期)が良かったどうかを評価( A・B・C・D・E )されます。この貴重な評価を次年度のITサービス改善につなげます。

 続いて、大事なのは、社員を評価する年間スケジュールです。本事例では、スタッフの評価は年に2回実施しています。

 ★全体的な評価スケジュールの事例

 スタッフ向けのOJTシートおよび管理職向けの目標管理シートにおける主要項目の例は以下のとおりです。上級管理職はベテランであり、会社の文化を体得しているため、行動実績評価は省略されています。

 ★OJTシート・目標管理シートの事例

 ★IT部門の業務におけるアウトプットのQCD評価は明確にできるため、OJT面談の際、6ヶ月後のアウトプットを正確に社員にコミットさせておくことが重要です。6か月後には、結果をコミットした内容のとおりかどうか確認して、評価し、その評価を社員と合意します。例えば「ネットワークアップグレードの施策」について、事前に品質、コストおよび納期を合意しておいて、 6 ヶ月後にそのとおりであれば、評価は「C」となります。もちろん、全体評価が自動的に計算できるOJT面談シート・賞与計算システムであるべきです。

 人事考課や会社のキャリアプランとは別に、社員が希望するキャリアプランの入力画面の例は以下のとおりです。

 ★キャリアプランの入力画面の例

 中長期的に、会社作成のキャリアプランと社員が希望するキャリアプランをマッチングして、キャリアアップを形成していくことが重要になります。

ワンポイントメッセージ:人事部の月間・年間スケジュールを把握し、人事部員の繁忙期を人事情報・給与管理システムの導入計画において考慮することが成功のキーとなります。

 ★人事部月間スケジュールの例

No.業務 初旬(1日~10日) 中旬(11日~20日)下旬(21日~30日)
1勤怠管理・日々発生する勤怠データの入力
・各種申請の受付
・同左・ 同左
2給与支払い・前月分勤怠データ確認-------・銀行へ振込依頼
・給与明細書出力
・給与明細配布
3納付業務・10日まで
前月分所得税の源泉所得税額納付
前月分住民税の徴収税額納付
-------・健康保険納付
・厚生年金保険料納付

★人事部年間スケジュールの例

人事管理給与計算 給与計算(納税処理)福利厚生
1月・採用活動
(通年)
・月額支給計算
(通年)
・法定調書合計表作成
・給与支払報告書作成
・基準報酬随時改定作業
(通年)
2月 ------- ------- --------------
3月・決算賞与支給 ------- --------------
4月・昇進・昇級
・人事異動
・上期賞与支払業務 ------- -------
5月 -------・上期賞与支払業務 -------・労働保険料の年度更新
6月 -------・上期賞与支給・住民税額の改定 -------
7月 ------- ------- ------- -------
8月 ------- ------- ------- -------
9月 ------- ------- -------・社会保険料改定
10月・昇進・昇級
・人事異動
・下期賞与支払業務 -------・新たな社会保険料開始
11月 -------・下期賞与支払業務 -------  同上
12月 -------・下期賞与支給・年末調整  同上

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