ここではIT関連におけるビジネスシーン、つまり上司と部下、顧客やITベンダーとの間で円滑なコミュニケーション(双方向で意思の疎通)を実施するアプローチについてご紹介します。

IT組織におけるコミュニケーションは、以下の4つに大別されます。

  1. マネジメントとのコミュニケーション
  2. システム運用:ユーザー(システム利用者)とのコミュニケーション
  3. システム構築:プロジェクトマネジメントのコミュニケーション
  4. IT部門運営のためのコミュニケーション手段

1. マネジメントのコミュニケーション

 まず、マネジメントとのコミュニケーションを次の2項目に分けて説明します。

  1. エグゼクティブとのコミュニケーション
    1. 経営陣とのコミュニケーションはITに関する「相談」および「指示命令」が多いと言えます。
      1. 「相談」を受けた場合、的確に即答できる場合は問題ありませんが、ITは日進月歩に進化しているため、全部を把握するのは困難です。即答できない場合、「相談の内容は理解しました。回答は調査してから的確に回答しますので、ちょっとお時間ください。〇〇時までに回答いたします」というコミュニケーションをとるのが望ましいです。回答する際は、概要を1枚のパワーポイントに整理して説明するのがより効果的です。

      2. 「指示命令」があった場合、合意ができる内容であれば「承知いたしました」と即答してアクションをとることで終わります。しかし、もっと良い解決案が頭の中にあり、受けた指示命令の内容を変更したい場合は「Yes, Yes - But, But - No, No」という会話術が効果的です。
        経営陣は権限もあり、プライドが高い方が多いため、自分が出した指示が管理職レベルの社員に真っ向から否定されると、過剰に反応するケースを見てきました。最後には「言うことを聞かない社員」というレッテルを貼られて左遷、降格や異動させられたケースまで見てきました。客観的には双方とも頑固であり、ミスコミュニケーションの問題と言えます。
        後任者には同じ轍を踏まないように、「Yes, Yes - But, But - No, No」手法を実践するようアドバイスしました。結果、円滑なコミュニケーションが達成できました。
        「Yes, Yes - But, But - No, No」手法の事例:経営陣からのプランAの指示に対して「それはいいですね。さすがです!(Yes, Yes)」と言います。その後に、「但し、この課題の解決案としてはプランB、プランCとプランDも考えられます(But, But)」と言います。最後に「プランAは良いプランですが、今回のメリット・デメリット・コスト・納期・リスクを考慮するとプランCを採用しませんか(No, No)」と言って、経営陣は納得してIT専門家の推奨案を採用することになりました。
  2. 部下とのコミュニケーション
    マクレガーのX理論Y理論(McGregor’s motivational theory X theory Y)によると、IT部門で遂行する業務は技術力を必要とするホワイトカラー業務で占めており、IT担当は自己実現と承認欲求が強い場合が多いため「Y理論」が合っています。上司が温和・謙虚な態度で部下の意見を傾聴し、懇切な指導をするコミュニケーションにより、IT部門内のモチベーションおよび生産性が向上したケースを目あたりにしました。その上司のコミュニケーション力を向上させるために一般的な管理職研修(労働基準法の基本、リーダーシップ、コーチング、カウンセリング、ソーシャルスタイル、モチベーションマネジメント、チームビルディングなど)の受講は必須と考えます。

  もちろん、商品の製造のためにスピードと品質を求める工場や高所での肉体労働など、個人の自主性に任せた管理ではリスクが大きい場合には、X理論によるマネジメントとコミュニケーションスタイルが合っています。これは、上司が一般的な管理研修を受けなくても、成り立つマネジメントスタイルです。X理論を採用する場合には、上司が部下に仕事を細かく指示し、最後まで監督責任を負ってあげ、安全で安心できる仕事環境を提供し、ポジティブな言葉のみを用いることによって建設的・生産的な指導が可能です。

2. システム運用:ユーザーとのコミュニケーション

 エンドユーザーとのコミュニケーションについては、ITサービスマネジメントという概念があります。それはITサービスの運用にあたり、ITサービス利用者の目線に立ち、ITサービスの品質向上、効率化や最適化を図るマネジメントのことです。その成功事例やお役立ち情報、コスト削減のノウハウなどをまとめた教科書のようなものが「ITIL(Information Technology Infrastructure Libraryの略)」です。このITILをベースとしてアレンジしたコミュニケーションルートを以下の図に示します。

  エンドユーザーが各システムを円滑に利用しようとすると、必ず個別システムに関する問い合わせが発生します。ここでIT部の問い合わせ機能である「ヘルプデスク」にコミュニケーションルートを一元化することが重要です。問い合わせをの内容を一元管理して、データベース化することにより、問い合わせを受けた社員はこれらのデータベースの記録を参照した上で、チームとしての対応が可能になります。なお、このデータベースの仕組みは「ヘルプデスク」のページに詳しく述べていますので「こちら」をご参照ください。

 社内顧客であるシステム利用者(経営陣および一般社員、通称エンドユーザー)とIT部とのコミュニケーションについては「エグゼクティブサポート」、「エンドユーザーサポート」およびITベンダーへのエスカレーション(ITベンダーとの契約締結前提)の順に説明します。

  1. エグゼクティブサポート(図の①)
     経営陣は多忙であり、回答の迅速さが求められるため、彼らからの問い合わせ(相談・確認)対応は迅速かつオールマイティーに対応できるベテランのヘルプデスク担当を推奨します。経営陣と円滑なコミュニケーションができて、かつサポート力が高いことが重要で対応後にはデータベースに記録します。
  2. エンドユーザーサポート(図の②と③)
     エンドユーザー向けの問い合わせ対応は二つに大別されます。まずIT部にITポータル(ウェブサイト)を整備して、過去の問い合わせに対する回答やソフトウェアの操作方法をエンドユーザーに分かりやすいように記載します。ナレッジ共有によりセルフヘルプ(自己解決)が可能になります。二つ目は、下記のヘルプデスク担当に対する問い合わせへの対応です。
    (a) ウェブサイトの問い合わせ画面(フォーム)からの送信
    (b) 問合せ用メールアドレス宛メールによる問い合わせ
    (c) 電話での問い合わせ
     (a)と(b)は24時間受付可能として、ユーザーの利便性を高め、かつ問い合わせ内容の電子化・データベース化を容易にするためでもあります。(c)ではヘルプデスク専用の電話番号を準備しておくことが望ましいです。
     なお、各個別システムを構築したITベンダーへ確認や調査依頼する場合もあります。この場合、エンドユーザーには、ITベンダーへエスカレーション(確認・調査依頼)すること、ITベンダーから回答が得られ次第ご連絡することを伝えしるのがベストです。
  3. ITベンダーへのエスカレーション(ITベンダーとの契約締結前提、図の④と⑤)
     自社で利用しているシステムの開発者、このITベンダーとサポート契約を締結することは必須です。コミュニケーションシステムはアメリカ製が多く、ITベンダーはこちらからのエスカレーションは受けてくれますが、製品のウェブサイトの「よくある質問、FAQ(Frequently Asked Questionの略称」に記載されている以上のことはほとんどありません。業務システムのITベンダーはこちらのIT環境を把握しているため、こちらからのエスカレーションを快く受けて、調査・対応してくれますが、時間は多少かかります。なお、ITベンダーとの付き合い方や契約内容の要点については「ITベンダーマネジメント」のページに詳細に記載していますので、「こちら」にてご参照ください。

3. システム構築:プロジェクトマネジメントのコミュニケーション

  プロジェクトマネジメントのコミュニケーションを語る前に「プロジェクト体制」の話が必要であるため、「プロジェクトマネジメント」のページにまとめて記載しました。こちらをご参照ください。

4. IT部門運営のコミュニケーション手段

 最後に、IT部門の円滑な運営を目的とコミュニケーションのための会議体の例を以下の図にまとめました。(図をクリックすると拡大表示します)

特記事項:中小企業では、IT部門における社員数が多くないため上記の(2)と(3)を同時開催しているケースがあります。

 最後に年1回、前年度成果「IT白書」という報告書をIT部長が作成して、役員に報告します。問題なければ、全社員向けにITポータルで公開することにより、1年の業務におけるPDCAが成立します。

 また、「QCD+R表、品質(Quality)、コスト(Cost)、納期(Delivery)、リスク(Risk)」を意思決定の統一のための媒体として利用すると、意思決定のためのコミュニケーションもスムーズに遂行できます。もちろん、決議書・稟議書を担当役員へ説明する一枚として便利ですので、ご利用を推奨します。

プレゼンテクニック手段:プレゼンテーションの聞き手の目線は左上から右下に沿って移動する傾向があるため、メインの文字列や図は左上から右下へ配置すること。文字の色が多いとポイントが分からなくなるため3色までにすること。そしてパワーポイント1枚に対する説明は1分程度とし、伝えたいメッセージは「1メッセージ」とするのがよいプレゼンと言われています。つまり、プレゼン時間が15分の場合、パワーポイント15枚が適切です。

ワンポイントメッセージ:マクレガーのY理論を基本とした、ネガティブな言葉は使用しないコミュニケーションの実践を強く推奨します。

 次項の”リスクマネジメント・危機管理”については、「こちら」をクリックしてご参照ください。