統合基幹業務システム(Enterprise Resource Planning, ERP)の導入について紹介します。
★本ページの内容:
1. ERPシステム導入の目的
ERPとはEnterprise Resource Planningの略で、直訳すると「企業資源計画」です。 これは、企業経営の基本資源であるヒト・モノ・カネ・情報を適切に有効活用する計画を意味します。この計画を実現する手段として、会計機能を中心とした販売管理機能や生産管理機能を統合したシステムは、「ERPシステム」や「ERPパッケージ」と呼ばれています。
前のページからの再掲になりますが、ERPシステム導入の目的は以下の通りです。
- 個別最適化している販売管理、生産管理、財務会計システムなどを統合した共通基幹システム基盤上で業務処理することにより、業務全体のプロセス標準化、最適化を実現し、業務全体の生産性向上を図ること
- 業務プロセスを標準化、最適化することにより業務の属人化を排除し、人事異動等が発生した際 も円滑な業務の引継ぎ、継続を可能にすること
- 業務データの統合による、ほぼリアルタイムでの可視化を通じて経営状況を適時把握し、経営の意思決定を迅速化すること
ここで理解して頂きたいのは、ERPは「経営層」のためのシステムであるということで経営層が経営状況をほぼリアルタイムで把握し、適切な意思決定をするためのデータを提供するシステムであり、個別開発したシステムのように、エンドユーザーが「データ入力の操作をしやすい」インタフェースになっていません。
2. ERPシステム導入のポイント
ERPシステムの導入では、まず会社情報やユーザー情報のようなマスターデータを設定し、次に企業のビジネスに合わせるためにパラメータの設定を実施し、標準機能でカバーできない部分(アドオン)を開発して、最後に必要に応じてカスタマイズ(モディフィケーション)を行います。
欧米企業では、基本的にカスタマイズ(モディフィケーション)なしで導入します。しかし、日本企業ではERPの特長をよく理解していない場合が多く、かつ現場の声が強いため、現行システムより操作しやすいシステムではないと利用しないという抵抗にあう場面が多々あります。ここで、経営陣が現場の声を全部反映しようとすると、以下のようなデメリットが発生します。
No. | 項目 | ERPのメリット | モディフィケーションのデメリット |
1 | 品質 | 業務プロセスの標準化・最適化実現 | アップグレードが困難になる |
2 | コスト | 個別開発するより低コスト | コスト増となる |
3 | 納期 | 短期間 | 開発に時間が掛かる |
4 | リスク | 属人化の回避 | プロジェクト自体の頓挫 |
やはり重要なのは、経営層がERPシステムの特長(経営層のためのシステムであること)を理解すること、「モディフィケーションなし」で導入すること、そして企業の発展のために業務プロセスの標準化・全体最適化を実現することを現場に説明して、理解・納得してもらい、多少操作が複雑になっても会社全体のためになるので協力を得ることです。
ERPシステムの業界をリードしているドイツのSAP社の用語と一般的なERPの用語を以下の表に整理しました。
No. | ERPの一般的な用語 | SAP社の用語 | 備考 |
1 | マスター設定 | マスター設定 | ・会社情報など基本データ |
2 | パラメータ設定 | パラメータ設定 | ・標準機能 |
3 | カスタマイズ | アドオン | ・追加機能の開発 ・アドオンはアップグレード可 |
4 | 同上 | モディフィケーション | ・標準プログラムの修正 |
ERPシステム導入におけるシステム的なメリットは、以下の図のとおりです(赤色部分)。
個別最適化された販売管理システム、財務会計システムおよび生産管理システムは、3つのデータベース、データベース間でデータ交換する仕組みおよび最大で3社のサポートを受けるという構成です。ERPシステムでは、1個のデータベースで全部の処理ができ、サポートも1社で済みます。
3. ERPシステム導入のアプローチ
まず、ITベンダーマネジメントのページからの再掲となりますが、システム導入するためのスコープは以下のとおりです。
要件定義フェーズをもう少し細かくすると、以下のとおりです。
No. | 内容 | 詳細 | 備考 |
1 | 評価(要求定義) | 企業のニーズ確認 | ヒアリング |
2 | 実現可能性 | フィットアンドギャップ分析 | フィット率75%以上 |
3 | 要件定義 | 必要な要求・機能の整理文書 (ギャップの解決案含む) | プロジェクト開始前 |
4 | 提案依頼(RFP) | ベンダー選定 | 最低3社に依頼 |
5 | 開発(要求仕様) | ベンダー作業 | プロジェクト管理 |
6 | 導入 | 同上 | 同上 |
7 | 運用 | 利用開始 | サポート開始 |
ERPシステム導入の際によくある問題は、ERPのことは理解しておらず、要件定義は一回も実施していないにもかかわらず、「弊社の業務はERPに向いていない」と主張する古参の存在です(特に例外処理を挙げて、処理できないと言うことが多いです)。このハードルを突破するには、要件定義を実施することです。ここで初めてそのERPシステムにおける機能のフィット率とギャップ率が明確になります。一般的に、75%以上フィットして、後の25%がどう対応するかが分かるようになれば、ERP導入は勧められます。
ITベンダーによっては、ヒアリング~フィットアンドギャップ分析までのテンプレートを準備しており、無償で実施してくれます。有償であっても、おそろしく高い価格ではないため、実施する価値はあります。
★特記事項1:標準機能で対応できない部分が「ギャップ」であり、その解決案としては、社員が運用で対応するか、アドオン開発するか、カスタマイズ(モディフィケーション)するしかありません。但し、ERPの特長を考慮するとモディフィケーションは推奨できません。
★特記事項2:ERPシステムは、各業務形態のベストプラクティス(最善の手法)をベースにして構築されているため、小売業、商社、卸業、製造業、建設業や食品業向けなどのERPシステムを提供できます。
4. 中小企業向けERPシステム導入事例
- 卸業(年間売上:120億円)
No. | 項目 | 内容 | 詳細 |
1 | 品質 | ・財務会計 ・販売/購買管理 | クラウド |
2 | コスト | ・初期費用:約5,000万円 ・運用コスト:約60万円/月 | スタート時点: 新規事業(システムなし) |
3 | 納期 | ・約5ヶ月 | ------- |
4 | リスク | ・レスポンスはインターネット回線に依存する | ----- |
2. 販社(年間売上:約60億円)
No. | 項目 | 内容 | 詳細 |
1 | 品質 | ・財務会計 ・販売/購買管理 | オンプレミス |
2 | コスト | ・初期費用: 約5,600万円 ・運用コスト:約40万円/月 ・サーバー費用は含まれない | スタート時点:個別最適化 会計システム、販売管理 |
3 | 納期 | ・約1年 | ------- |
4 | リスク | ・カスタマイズあり | ----- |
3. 製造業 (年間売上:約100億円)
No. | 項目 | 内容 | 詳細 |
1 | 品質 | ・財務会計 ・販売/購買管理 ・生産管理 | オンプレミス |
2 | コスト | ・初期費用:約1.2億円 ・運用コスト:約80万円/月 ・サーバー費用は含まれない | スタート時点:個別最適化 会計システム、販売管理、生産管理 |
3 | 納期 | ・約1年6ヶ月 | ------- |
4 | リスク | ・特になし | 製造業に特化したERPベンダー |
4. 製造業(年間売上:約15億円)
No. | 項目 | 内容 | 詳細 |
1 | 品質 | ・財務会計 ・販売/購買管理 | オンプレミス |
2 | コスト | ・初期費用:約500万円 ・運用コスト:約10万円/月 ・サーバー費用は含まれない | スタート時点: 会計システムのみ 販売業務はワードとエクセル対応 |
3 | 納期 | ・約6ヶ月 | ------- |
4 | リスク | ・安かろう悪かろうのリスク | オープンソースERP |
★特記事項3:大企業でERPシステムを導入する際には、納期が3年、コストが100億円以上、かつ個別機能を部分的に導入するケースもあります。例えば、財務会計システムを先行導入して、次に販売管理システムを導入し、最後に生産管理システムを導入するなど。しかし、中小企業では、小回りが利く規模であることを生かして、例えば販社であれば財務会計と販売・購買管理機能、製造業であれば財務会計、販売・購買管理および生産管理を同時にリリースする方法をお勧めします。部分的に導入した場合、次のシステムを導入する際に、設定作業やプログラムの手戻りや納品済みドキュメントの修正が発生してコスト増となり、工数的、納期的および経済的にも効率的ではないからです。
5. 国産ERPか外国製ERPか
ERPシステム市場のリーダーはドイツのSAP社およびアメリカのオラクル社であり、大企業はほぼどちらかのERPシステムを導入しています。もちろん、中堅・中小企業向けERPもラインアップされています。国産の代表的な中小企業向けERPシステムのメーカーは、富士通、NTTデータ、OBICやGRANDITです。
No. | 項目 | 内国産ERP | 外国製ERP |
1 | メリット | ・日本人向けであり、操作しやすい ・日本ルールに対応 ・法改正対応は早い | ・多言語に対応 ・他通貨に対応 ・為替レート表標準装備 ・海外法規への準拠 |
2 | デメリット | ・グローバル対応ERP不在 | ・法改正対応にタイムラグ ・バグ対応にタイムラグ |
日本の法改正の施行は1年以上も後となることが多いため、外国メーカーも問題なく対応しています。どのERPシステムが自社に適切であるかを判別するには、まず目的を明確にして、要件定義して、複数のベンダーから話を聞いてから、意思決定プロセスを踏むことが不可欠です。
ワンポイントメッセージ:ERPシステムは「経営層のためのシステム」であり、「カスタマイズ(モディフィケーション)なし」で導入すること、そして多少操作が複雑になっても「現場の協力」を得ることが成功のポイントです。
ERPシステムを含む業務システム全般の導入の詳細は「プロジェクトマネジメント」のページに記載しております。次項の"コミュニケーションツール"は「こちら」をクリックしてご参照ください。